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創業130年!栗焼酎『ダバダ火振』の伝統を守り続ける番頭の挑戦。#しまんとひと名鑑
移住者の大先輩と言える月日をここ、高知県四万十町大正地域で紡いできたのは、福永太郎さん(42)。
全国的にも珍しい栗を使った焼酎「ダバダ火振」を看板商品に、明治26 年から地の酒造りを続けてきた酒蔵「無手無冠(むてむか)」。
まだ22歳だった頃、アポ無しで飛び込んだ酒蔵で働く人々の人柄に惚れ込み、それから今でも変わらず番頭として働く福永さん。地元のモノにこだわる酒造りに移住者として福永さんはどう携わってきたのか。
20 年住み続けた地で福永さんが得たもの、未来に繋ぎたいものは何なのか。
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高知県四万十町の大正地域という山間の集落で、明治26年に創業した酒蔵「無手無冠」。
20年以上、番頭としてこの酒蔵を支えているのは宮崎県出身の福永太郎さん(42)。
高知県へ移住をし、酒造りに携わり始めたのはまだ22歳の頃だった。
移住前は、大阪で友人とともに居酒屋を経営していた福永さん。
お店でお酒を提供しているうち、自身も日本酒の魅力にめざめ、全国の酒蔵を訪問することに。
そんな中で出会ったのが、「無手無冠」だった。
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「当時、支店が高知市内にあったんですけど、アポ無しでいきなり訪ねたんです。それにも関わらず、女将さんや杜氏の方々によくしていただいて。酒蔵の見学はもちろん、『お昼になったからご飯を食べていきなさい』とか、『もう夜遅いから泊まって行きなさい』とか。お酒も美味しかったんですけど、お酒を作る人たちの人柄に惚れたんですよね」
日本酒の魅力に惹かれて酒蔵を巡っていたはずが、それよりも、高知県民の人柄に魅了されたという福永さん。
すぐに移住を決め、早速、高知市にあった支店の長を任された。
9カ月ほど支店長を務めていたが、支店が閉まることとなり、酒蔵がある四万十町大正地域へ移り住むことに。
大阪から高知市内へ、そしてさらに奥地の四万十町大正地域へ。
今では「二段階移住」と言われることもあるが、20年前のその頃はもちろんそんな言葉もなく、ハードルが高かったのではないだろうか。
「あの頃は、やっぱり他所(よそ)からきた人って珍しかったので、最初は『たらい回し』ですよね。『今晩はうちに来いや』、次の日は隣の家。みんな移住者が珍しくて、話を聞きたかったんだと思います。そうやって可愛がってもらったおかげで、今はみんなが知り合いです。私の場合は人と話すのが好きでしたし、『地元の人と喋りたい』っていう気持ちがあったので」
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知らない土地の知らない人たち。
彼らとの関わりは全く苦にはならなかったという福永さん。
長い間、田舎と言われる地方で住み続けられる理由には、地域の人とのコミュニケーションを楽しむ福永さんの明るさがあるのだろう。
大正地域に来てからの福永さんの仕事は「番頭(ばんとう)」。
「番頭がしっかりしていれば、従業員もついてくる。良いお酒もできる」と言われるというその役割は、言わば何でも屋。
今は番頭がいる酒蔵も全国では少なくなってきたというが、営業や広報活動、杜氏たちとの商品作り、原料の調達、店番まで、幅広い仕事を担っている。
明治26年に創業し、130年もの間、地域でお酒を作り続けられてきたのには、先代や今の「無手無冠」を切り盛りする従業員、そして、番頭としての務めを果たす福永さんたちの酒造りに対する想いがある。
看板商品は「ダバダ火振」。
芋でもなく、米でもなく、全国的にも珍しい栗を使った栗焼酎だ。
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「元々、四万十町は栗の産地なんですけど、売れずに余ってしまう栗を当時の町長が『栗で酒を作れないか』と言ったのが栗焼酎を始めたきっかけなんです。でも、最初はなかなか売れなかった。そんな時に先代が、40010(しまんと)時間、洞穴で寝かせた栗焼酎を『ミステリアスリザーブ』という名で発売するというアイデアを出しました。また、私が入ってからは、地元にあるフィギュアで有名な『海洋堂』さんとのコラボレーションをしたり。色々試行錯誤しながら徐々に売れるようになっていきました。常に面白いことをやっていこうという姿勢でいるんです」
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美味しいお酒を作ることが一番の目標。
その一方、お酒を味わってくれるお客さんたちに飽きがこないということも大切にしたい。
養子として無手無冠に婿入りした先代、そして移住者として県外から仲間入りした福永さん、そんな「よそ者」と言われる人々のアイデアが、歴史ある地元の酒蔵で新たな可能性を生み出している。
昨年に続き、今月(2023/10)から発売予定のイタリア産栗を使用した「DABADA Italiano」も、福永さんのアイデアから生まれた商品だ。
こうして地域、そして地の酒蔵に根付いた活動を20年もの間続けてきた福永さん。
今、抱いている思いは「地域への恩返し」、そして、「若者たちの成長を見守ること」だという。
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「この四万十町大正という地に来て、皆さんによくしてもらったので、その恩返しがしたいという思いが一番強いんです。何年も前からSNS を使って無手無冠の発信をしているのもその思いがあるから。『新商品発売!○○円です』みたいな商品の宣伝はしないと決めています。それよりも、四万十川の綺麗な景色や撮影スポットなど、遠方から四万十町に来たいと思う人が増えて、魅力を感じてくれて、この地域の経済が少しでも回れば嬉しいなと思っています。それで最終的に、私たちのお酒を一本でも買ってくれたらいいかなって」
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手間暇かけて生み出した商品は、きっと宣伝したくなってしまうはず。
それでも福永さんがそれをしないのは、「それは誰でもできること。それよりも私には他にやれることがあるんじゃないかって」
この数年は、一緒に働く仲間には若い世代が増えてきたという。
福永さんはそんな後輩たちの成長を見守ることもまた、一つの夢であると話す。
「自分が一番年少者だったのに、いつの間にか自分よりも若い子ばっかりになってきました。その子たちにどうやって無手無冠を盛り上げていってもらうか。後輩たちの成長を見守っていきたいなと思っています。これまで私が培ってきた人との繋がりもたくさんあるので、イベントや県外への出張にも後輩たちを連れて行き、彼らの繋がりも広げてもらいたいなと思っています」
4 人の子どもたちを育てる父親でもあるからこそ、より強くそう感じているのかもしれない。
移住者にとって、生まれ故郷ではない土地で20 年も暮らすことは必ずしも簡単ではない。
それでも福永さんのように地域に溶け込み、「地の者」になっている移住者がいる。
「お酒という好きな仕事は、自分にとっては天職だと思っています。好きなことは仕事にはしないほうがいいと言う人もいますけど、やっぱり好きじゃないとできないことだと思うので」
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仕事後には、近所にある民宿のお父さん、お母さんと食卓を囲うこともよくあるそう。
「毎日、今日の晩酌が楽しみで仕方ない。今日は何を飲もうか・・・」
と笑いながら話す福永さん。
好きなお酒に携わり、地域の人とのコミュニケーションを大事にしてきたからこその生活がここ、四万十川のほとりにある。
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